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 透き通った歌声に、思わず足を止めてしまった。  心が動かされると、体は動かなくなるものなのだろうか。  心を奪われたとは、こういうことだろうか。  初めての感覚に戸惑いながらも、静かに心を震わせる。  学校からの帰り道、駅前で路上ライブをする人を見かけることは珍しくはない。  だが、立ち止まってまでその音楽を聴いたことはなかった。  それなのに、初めて聴く歌声に、なぜか僕の足は止まった。  決して周囲にギャラリーができているわけではない。  いつものように、多くの人がちらりと演奏者を見ては、素通りしていく。  普段は僕も同じようにしていたはずなのに、今日は違った。  曲の最後のほうしか聴けなかったにも関わらず、その歌は僕の体全身に響き渡り、言いようのない感覚を生み出した。  もっと聴きたい。  それだけが、僕が僕自身について理解できた、唯一の気持ちだろう。
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