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今度は最初から最後まで、誰の顔を見る余裕もなかった。
さっきの涼香さんの歌のあとだから、どうしたって比べてしまうけれど、これが今の僕の全力だ。
今回も昌人が先陣切って拍手をしてくれた。
しかしどこかわざとらしく、いかにも煽っているような感じが鼻につく。
藤牧さんと古賀さんは静かに笑って、僕のこれからを見守ってくれるようだった。
そして肝心の涼香さんはと言うと、さっきと同じような放心状態で、僕の顔をぽかんと見つめていた。
「あ、あの、涼香さん。どう、でしたか」
「…………」
「涼香さん?」
「すごく、よかったよ。感動しちゃった」
そこから先が続かず、僕はどうしたらいいかわからなくなった。
後ろの三人の小声のやり取りが、なぜかハッキリと聞こえた。
「これは……伝わってないかな?」
「そうみたいっすね。哀れな律」
「ちょっと、やめようよ」
そんなこと言ってないで助けてくださいよと、僕は目で古賀さんに訴える。
古賀さんはこれ見よがしなため息をついて、涼香さんに声をかけた。
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