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「わ、私は、一人じゃなんにも、できなくって、人見知りで、唄うことしか、取り柄なんかなくって」 「その歌で、僕たちは出会ったんです」 「で、でも、本当に、私で、いいの?」 「涼香さんがいいんです」 「私、どうしたら、いいの? 今まで、こんなふうに、誰かに好きだなんて、言われたこと、なかったから」  涼香さんの瞳には涙が浮かんでいる。  今にも泣きだしそうだが、僕はそれを無視した。 「涼香さんの気持ちを、聞かせてください」 「わ、私も、律生くんのこと、好きだよ。律生くんが、私の歌、ほめてくれて、すごく、すっごく嬉しかった。あのとき、生まれて初めて、私が、人の、誰かの、役に立てたんだって、そう思えたの」  大粒の涙がいくつも、涼香さんの目から零れ落ちた。  赤くなった頬を伝い、地面を濡らす。 「涼香さん……」 「律生くんが、私の人生を、変えてくれた。でも、私は、それだけで、十分だった。私なんかが、律生くんのそばにいたいなんて、言えるわけないって、ずっと、思ってた」 「前にも、言いましたよね。涼香さんは、『なんか』なんかじゃないって」 「うん、うん……」 「涼香さん、笑ってください。僕は、涼香さんの笑顔が見たいんです」 「律生くん、ありが、ありがとう。こんな私を、選んでくれて。こんな私に、出会ってくれて」  涙を流したまま、涼香さんは笑ってくれた。  表情がよく見えるようになった今、この笑顔は今までのどの笑顔よりも綺麗に見えた。
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