第1章 憧れの地

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 広場に立って正面に見えるはサン・マルコ寺院。  東ローマ帝国の勢力下で興った建築様式”ビザンティン建築”を代表する記念建築物であるとされている。  それに隣接して荘厳な姿を大衆に晒しているのは、元総督邸兼政庁のドゥカーレ宮殿。  運河を隔て、対岸にある牢獄の跡と溜息橋で結ばれている、現在ヴェネツィア市民美術館財団が抱える見術間の一つ。一般公開されているが、入館料として十九ユーロは約二千と五百円。そこまで高額というわけでもない。  そんな中で、僕が一番見たかったのは。 「大きい」  呟いたのは、僕ではなく隣にいる葵。  見上げ、言葉を失った僕の心を代弁してくれているようである。  高さ約百メートルのカンパニーレ。”鐘楼”である。  九世紀に建てられたこれの当時の役割は見張り台。ドゥカーレ宮殿に仕える警護兵舎の一部としても使用された。五つの鐘があり、処刑、上院の開会、正午、議員招集、労働日の始終を知らせるといった、それぞれが異なる役割を担っていた。  こちらも一般開放されており、八ユーロでエレベータを使用し鐘室へと上ることが可能で、四方開けたそこからはヴェネツィアの景観をどの方向にも一望出来る。  オーストラリアのブリズベン市庁舎、ニューヨークのメトロライフタワーといった高層建築物のデザインに大きな影響を与えたとされる。 「おっきいな……ここまで驚くとは思わなんだ」  漏れた僕の感想なんて、子どもみたいに拙いものだ。  自分が本当に感動するものは、月並みな言葉以外では形容し難いものなのだ。
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