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隣で一緒になって手を引かれる葵と目が合うと、互いに苦笑い。
すると、やや呆れて溜息を吐く僕らの手を離し、そこでストップと伝えると自分だけ十歩分くらい進んで、
「せっかくですので、ヴェネツィア旅行初の写真を撮りましょう!」
振り返り様に見せた笑顔の無邪気さは子どものそれだった。
そこでまた、顔を見合わせて笑う僕と葵。
幾つも年上なのに、どうしてこうも楽しめるのか。
「取材旅行じゃなかったんですか、桐島さん?」
「それはそうですけれど、楽しめる時には楽しまないと。損じゃありませんか?」
高説ごもっともなのだけれど、ついさっきというかたった今、ヴァポレットに乗り遅れるからと引っ張っていったのは何処の誰だったろうか。
楽しいなら、いがみ合っているより幾分も気が楽なことに変わりはないけれど。
桐島さんは、近くを通った中年の男性をつかまえて「Excuse me.」と声を掛けた。
「Could you take our picture with this camera?」
「Yes,please. Should I take you together?」
「You're right! Thank you for taking time for us.」
「I don't mind. then I take it.」
凄い。
本当に会話をしている。
えっと――うん、速すぎてよく聞き取れなかったな。
「葵」
隣で何のことはない様子で会話をする二人を見ている葵に声を掛ける。
仕方ないなぁと溜息を吐きながらも、丁寧に翻訳をして今の会話内容を説明してくれた。
「えっと……順にいく。『すいません、このカメラで私たちの写真を撮ってくれませんか?』『あぁ。貸してごらん。あんたらを撮ればいいんだね?』『はい。お時間をいただいてありがとうございます』『構わんよ。それじゃあ、撮るよ』って感じかな」
「な、なるほど……」
話せる方も話せる方だが、会話に参加していない立場でそれを聞き取れる方も聞き取れる方だ。
流石は全国一位。といっても、そのレベルならこのくらい、実力の何割も占めてはいないのだろうけれど。
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