序章

3/6
前へ
/23ページ
次へ
 男性に簡単な使い方を説明し終えると、パタパタと駆けてくる桐島さんを中央に、右に僕、左に葵と並ぶ。単純なピースのポーズを取って静止、男性の掛け声でシャッターが切られる。  一枚、二枚、三枚と撮ったところで、桐島さんが「サンキュー」と列を離れた。  フィーリングで理解した限りだと、ありがとう、何の何のといった内容の会話が聞こえてくる。  男性の撮った写真を確認し、これで良しと「うんうん」と頷くと、二人ともが片手を上げて歩き別れる。話しが終わったらしい。  と、男性が振り返って「The lady of the camera?」カメラのお嬢さん、と呼び止める。  何でしょうと振り返った桐島さんに、 「We're speak Italian in this town. I am an exception. Have a nice trip.」  とだけ伝えると、再び前を向いて歩き始めた。  隣では桐島さんが「おーまいが」と、今まで英語を話していた人とは思えないカタコトで顔を押さえている。 「えっと…」 「『この街ではイタリア語で話すんだよ。僕は特別だ。良い旅を』だね」 「あー」  そういえば。  会話が成り立っていたから疑問を抱かなかったけれど、ヴェネツィアはイタリア国内にある都市だ。自然、ここに居る人たちはイタリア語を話す筈。  軽くコミュニケーションの取り方でも見ていれば、桐島さんならあっさりと話せるようになっていたものを。  なるほど、念のためにと買っておいた”イタリア旅行入門”なる本が役に立つらしい。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加