第1章 憧れの地

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 葵が、英語を話せる。  その響きだけで既に異様なのだが、普段あれだけまったりゆっくりとした喋りなだけあって、流暢でかっこいいイメージの英語とは程遠い。  一体、どの程度のレベルなのだろうか。  ふと、気になってしまった。 「葵」 「なに?」 「えっと……What are you looking forward to ?」 「あぁ、兄貴に聞いたのね。面倒だなぁ、もぅ。うーん…」  成績が良いイコール好きだというわけではないのか、言葉の通り溜息を吐いて立ち上がる。  少し考える様子を見せた後、コホンと一つ咳払いを置いて、 「A thing I'm looking forward to take a gondola ride. Cuz it can look at cityscape of Venice slowly. Hmm…It's to be interested rather than wanting to do it.」  すらすらと。  つらつらと。  回答のみならず、とても流暢な発音で以って、葵は返事を返してきた。 「お、おーまいが…」  何ということでしょう。  僕は一文程度の返答を要求したつもりだったのだが、葵はそれ以上の要素を付け加えて返してきた。  何がやりたいですか、という問いに対し『ゴンドラに乗りたい。ヴェネツィアの街並みをゆっくりと眺めることが出来るから。えっと…やりたいことって言うよりは、興味があることかな』といったところか。  辛うじて聞き取れたのは、洋楽をよく聴くから早口に慣れているだけであって、僕が話せるかと問われれば土台無理な話だった。 「試す真似してごめん。それは葵に渡すよ」 「え、やだよ。なんか釈然としないし。兄貴に謝らせる」 「程々にね」  未来で浮かべている遥さんの顔を想像すると、とてもではないがいたたまれない。
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