ゲーム実況者による地球の今後を左右する恋愛の始まり方

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 『今日は、MBドライブをやっていこうと思いまーす』  MBドライブは僕らがハマっているゲーム。  街中でバイクを乗り回す単純なゲームだが、造りは細かく、どこでも走れるし、何でも壊せる。    このゲームは好きだ。  元々バイクが好きだから、街の中を制限なく走り回れるこのゲームは最高だ。  通行人がわらわら歩いており、バイクの走行を邪魔するので、上手くその間を縫って走るというのが正規ルールだ。  だが、翔吾と帝は何かと轢きたがる。 『あちゃー! ごめんおっさん!』 『わざとだろ。このサイコパスが!』  ゲラゲラと笑う二人。  翔吾が通行人を轢き飛ばしたのだ。  このゲーム内では、人間は決して死なないし、バイクと接触した場合、有り得ないほど高く遠くまで吹っ飛んでいく。  残酷に見えないけど、気分がいいものじゃない。 『あ。やっちった』 『おい。お前も轢いてんじゃねえか』  でも、現実ではできないことができるのが、ゲームの魅力でもある。  だから僕は文句を言わない。  と言うより、二人のこういった奇行が、視聴者を惹き付けたのだ。  チームとして、本来ならば便乗するべきなのだ。  いつも僕は口数が少ないから、視聴者からやる気ないのかと貶される。  でも、僕にもファンがいるから気にしてない。  まあやる気がないのは本当なんだけど。 『おいハルト! 今どこだよ。合流するぞ』  今日も一切言葉を発することなく走り続けてしまっていた。 「渋谷の商店街爆走してたわ」  ぼそりとそう返事して、そのまま走り続けた。  僕は正統派だから、きちんと通行人を避けていく。  僕の画面だけでは単調過ぎてつまらないだろうけど、二人の猟奇さが際立つからこれでいいと思っている。  でも…… 『ハルト! そんなんで日頃のストレスを解消できんのか!』  と、翔吾。 『そうだぞハルト! ぶっちぎれ!』  と、帝。  視点を切り替えたらしく、僕の画面を覗き見られた。 「あーもう、黙れよこのサイコパス共」  動画仕様の強い口調で大きめに呟く。  僕は押しに弱いんだ。勘弁して欲しい。  仕方ない。  スピードアップだ。  人が賑わう商店街を猛スピードで駆け抜ける。  その時、僕は妙なものを見つけた。  ゲームの画面内。  前方右奥。    はためく白のワンピースと、風に靡く長めの黒髪が目に入った。  とても奇妙だった。  コンピュータらしからぬ迷いのある動きに、困ったような仕草。 「なんか、変なのがいる」  スピードをゆるめて呟いた。  明らかに、人そのもののような風貌の女の子がゲームの中にいた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加