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『今日は、MBドライブをやっていこうと思いまーす』
MBドライブは僕らがハマっているゲーム。
街中でバイクを乗り回す単純なゲームだが、造りは細かく、どこでも走れるし、何でも壊せる。
このゲームは好きだ。
元々バイクが好きだから、街の中を制限なく走り回れるこのゲームは最高だ。
通行人がわらわら歩いており、バイクの走行を邪魔するので、上手くその間を縫って走るというのが正規ルールだ。
だが、翔吾と帝は何かと轢きたがる。
『あちゃー! ごめんおっさん!』
『わざとだろ。このサイコパスが!』
ゲラゲラと笑う二人。
翔吾が通行人を轢き飛ばしたのだ。
このゲーム内では、人間は決して死なないし、バイクと接触した場合、有り得ないほど高く遠くまで吹っ飛んでいく。
残酷に見えないけど、気分がいいものじゃない。
『あ。やっちった』
『おい。お前も轢いてんじゃねえか』
でも、現実ではできないことができるのが、ゲームの魅力でもある。
だから僕は文句を言わない。
と言うより、二人のこういった奇行が、視聴者を惹き付けたのだ。
チームとして、本来ならば便乗するべきなのだ。
いつも僕は口数が少ないから、視聴者からやる気ないのかと貶される。
でも、僕にもファンがいるから気にしてない。
まあやる気がないのは本当なんだけど。
『おいハルト! 今どこだよ。合流するぞ』
今日も一切言葉を発することなく走り続けてしまっていた。
「渋谷の商店街爆走してたわ」
ぼそりとそう返事して、そのまま走り続けた。
僕は正統派だから、きちんと通行人を避けていく。
僕の画面だけでは単調過ぎてつまらないだろうけど、二人の猟奇さが際立つからこれでいいと思っている。
でも……
『ハルト! そんなんで日頃のストレスを解消できんのか!』
と、翔吾。
『そうだぞハルト! ぶっちぎれ!』
と、帝。
視点を切り替えたらしく、僕の画面を覗き見られた。
「あーもう、黙れよこのサイコパス共」
動画仕様の強い口調で大きめに呟く。
僕は押しに弱いんだ。勘弁して欲しい。
仕方ない。
スピードアップだ。
人が賑わう商店街を猛スピードで駆け抜ける。
その時、僕は妙なものを見つけた。
ゲームの画面内。
前方右奥。
はためく白のワンピースと、風に靡く長めの黒髪が目に入った。
とても奇妙だった。
コンピュータらしからぬ迷いのある動きに、困ったような仕草。
「なんか、変なのがいる」
スピードをゆるめて呟いた。
明らかに、人そのもののような風貌の女の子がゲームの中にいた。
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