1 Sな彼女とNな彼

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あっ。 煙を吐きながら 灰皿に灰を落としているのは 講師の西川さんだった。 「リーンちゃん」 彼がニコニコしながら 私に向かって言っている。 リンって何よ? 無視して進む。 「あれ? ユリアちゃんだっけ」 あっ! 「もうっ! 違います、マミヤです! それってアニメのキャラクターでしょ?!」 「あはは。気付いた? マミヤちゃんも意外とアニメ好きやな(笑)」 バットみたいな軽さで笑う。 何なの、この人……。 無視しようとする気持ちと裏腹に 足が止まった。 胸が震える。 思い出せそうで思い出せない。 どうしても どうしても 気になる。 振り返って聞いた。 「あの……、私とどこかでお会いしたことありませんか?」 彼は一瞬目を丸くして 「ははっ」と笑った。 「いきなり逆ナン?(笑)」 自分がナンパの常套句を 口にしたことに気付いて 頬が熱くなった。 「ちっ、違います!」 「違うんや(笑)。俺はマミヤちゃんみたいなべっぴんは忘れへんからなあ……」 顔をマジマジと見られると 心臓がぎゅっと掴まれたみたいに 胸が苦しい。 「ごめんなさい。気のせいでしたっ」 足早に立ち去る。 胸のつかえは取れない。
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