1 Sな彼女とNな彼

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1 Sな彼女とNな彼

二年前に別れた元カレへの手紙は ビリビリに破って投げ捨てた。 四葉のクローバーも 無惨な姿で風に舞う。 もし別れることがあっても 俺は実結以上の女は見つけられへん。 私の肩を抱きながら かっこつけて言った台詞を 馬鹿みたいに信じてた。 だから 偶然会える日を夢見てた。 運命の赤い糸で結ばれているのなら 磁石のS極とN極が引き合うみたいに 必ず会えると信じた。 会いたい気持ちが運命を超えて 私を彼の元へと走らせた。 待ってて。 今なら胸を張って いつまでもあなたを待ってると 心の底から笑顔で言える。 変わらず好きと言ったら笑うかな。 まだ前と同じ会社にいるということは リサーチ済み。 いきなり会社に乗り込むわけにはいかず 道の向かい側で建物の玄関から 出入りする人を眺める。 お昼時だからランチに行くと 思ったんだけどなあ。 土曜日だから休みかもしれない。 やっぱり手紙は郵送しようかな。 私の迷いを掻き消すように 車のマフラー音が近付いてきた。 紀樹だ! 直感だった。 振り返るとド派手なスポーツカーが 交差点の信号で止まっている。 きっと紀樹だ。 最初にかける言葉すら浮かばない。 でも 会いたかった。 駆け出していた。 なのに あと二メートルまで来た時 動けなくなった。 運転席に座る彼は 隣にいる女性の髪を 慈しむように撫でている。 今にもキスしそうな雰囲気に 思わず目を背けた。 去っていくマフラー音が 耳にこびりつく。 私だけがいつまでも 彼以上の人を見つけようともしなかった。 馬鹿みたい。 彼を傷付けた罪悪感から逃れたくて 早く他の人を見つけて欲しいと 祈ったのは私だった。 神様。 もう一度祈っていいですか。 いつか 彼がまた独りになったら 私の元へ返してください。
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