閉じられた世界で

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彼女との別れは突然やってきた。 半年後、彼女は遠くに行かなければならなくなった。 一度別れれば二度と会うことはできなくなる。 僕は別れのときまで、できる限り彼女と一緒に過ごした。 そして、今日。 彼女との別れのときがきた。 僕は彼女と10年間ともに歩んだ。 彼女は綺麗な長い髪を持っていた。 その長い髪が揺れる様子をいつもうしろから見るのが好きだった。 彼女はいつも大きな目標に向かっていた。 彼女は決してうしろを振り向かなかった。 僕はそんな彼女の姿をいつもうしろで見守り、憧れていた。 そんな彼女が僕の方を振り向いた。 特別美人というわけではないが、素敵な顔立ちだ。 しばらく見つめ合ったあと、僕は言った。 「ありがとう。今まで僕のかわりに冒険をしてくれて。」 彼女は表情一つ変えずに僕を見つめ続ける。 「君のおかげで僕は変われたよ。君を操作していても恥ずかしくない人間になろうって。」 視界が少しだけぼやける。 「周りの人は君のことをただのゲームのキャラクターだというかもしれないけど、僕にとっては恩人で、そして最高のパートナーだったよ。」 僕は画面越しにいる自分の操作キャラクターに最後の別れの言葉を告げた。 「今まで本当にありがとう。」 そう言い終えた瞬間、画面上に「サーバーとの接続が切れました。」という表示が現れた。 10年間続いたネットゲームが終わってしまった。 彼女ともう会えなくなるのが寂しくないと言えば嘘になる。 でも、もう大丈夫。 彼女のうしろ姿は今でも目に焼き付いている。 辛いときにはその姿を思い出せば頑張れるから。 それに最期の瞬間、彼女が笑ってくれたように思えたから。
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