閉じられた世界で

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僕は彼女と10年間ともに歩んだ。 彼女は綺麗な長い髪を持っていた。 その長い髪が揺れる様子を、いつもうしろから見るのが好きだった。 彼女と出会ったとき、僕はどうしようもない生活を送っていた。 なにもかもが上手くいかない絶望と先の見えない不安に押し潰され、薄暗い部屋にこもった。 彼女はそんな僕をいろいろな場所へ連れ出してくれた。 海。 山。 祭り。 ほかにもたくさんの景色を彼女と見た。 そのとき撮った彼女の写真は僕の宝物だ。 彼女はいつも大きな目標に向かっていた。 彼女は決してうしろを振り向かなかった。 僕はそんな彼女の姿をいつもうしろから見守るだけだった。 僕はそんな彼女の姿に憧れていた。 彼女への憧れが強くなるほどに、なにもできない自分が許せなくなっていった。 彼女のうしろ姿に一歩でも近づきたい。 僕は変わる決心をした。 始めのうちは、なにもかもが失敗だらけだった。 失敗するたびに絶望と不安に襲われ逃げ出したくなった。 しかしその度に、今まで見てきた彼女のうしろ姿を思い出した。 彼女はどんな困難にも決して逃げ出さなかった。 彼女はいつもその先の成功を僕に見せてくれた。 逃げ出したいという気持ちはいつの間にかどこかへと去っていた。 彼女に似合う服を手に入れるために初めてのアルバイトもした。 いつも以上に失敗と不安に押し潰されそうになった。 しかし、それ以上に彼女の喜ぶ顔が見たかった。 なんとかアルバイトの給料で服を手に入れたときには、すぐに彼女にそれをプレゼントした。 彼女はいつもと変わらない様子だったが、どこか嬉しそうに感じた。 少しずつであったが僕も成功するようになった。 成功するようになって、少しずつ世界が変わっていった。 人と接するのが少しだけ辛くなくなった。 友人ができた。 働くようにもなった。 彼女のうしろ姿に少しずつ近づいている気がした。
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