上『歌死魔さんの呪い』

16/19
前へ
/56ページ
次へ
2人は仲がいい…と思う。でもどこか埋まらない距離感があるように見える。 神楽君は、部室に居る時は窓際に椅子を置いて無言で外を眺めていることが多い。 そういう時は、なぜか潤君は神楽君に話しかけない。けど神楽君に用がある時、潤君はちょっと冷たい声で「神楽」と呼んで、振り向いた神楽君も潤君に向かって冷たい笑みを浮かべる。 でも、最近の神楽君は部室で潤君の近くに居ることが多い。話し合いに参加してくれるし、作業も手伝ってくれる。今みたいに、潤君と作業をしながら親しげに話す彼を見てると、まるで人格が変わったように思えてしまう。 そんなことを思いながら、2人の会話に耳を傾ける。 「今日の夕飯も、拓美がつくるのか?」 潤君は神楽君を名前で呼んだ。潤君はなぜか神楽君を、苗字と名前の両方で呼ぶ。名前で呼ぶ時は、今みたいに神楽君との距離感が近い。 「ああ。帰りにスーパー寄ってかねぇと。けど、今食いたいものがないんだよな…。潤、お前今なに食べたい?」 「そうだな…オムライスかな」 「ふーん。そんじゃ、オムライスにするわ」 「適当だなぁ」 「コンビニ弁当じゃないだけマシだろ」 潤君が笑うと、神楽君も笑う。2人とも機嫌がいい。 私はふと思う。 …今なら、私も、神楽君とコミュニケーションがとれるかも…。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

98人が本棚に入れています
本棚に追加