下『死者のメッセージ』

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また潤君に迷惑をかける、と思った瞬間に私は腰を上げていた。 「…わかった。歌うよ」 「そ。頼みます」 神楽君はにんまりと笑う。 私は籠の中に入っていたマイクを一本取り出して、デンモクで曲を選ぶ。 鈴村さんたちと来た時に歌った曲を迷わず選んで登録した。 「篠岡の歌、久しぶりに聞くな」 と、リーダーが言った。 そうだっけ、と首を傾げて記憶を探っていると、リーダーは眉を下げて笑みを浮かべる。 「お前、幼稚園の頃はよく帰り道に大きな声で歌ってたぜ」 「…リーダーだって、帰り道よくぶつぶつ歌ってたよ」 「俺の場合はお経だったなぁ」 「幼稚園児がお経をぶつぶつ呟いてるって不気味ですね…」 潤君は苦笑いする。 懐かしい昔の話をしたことで、気持ちがちょっと楽になった。 曲が流れ始める。 ソファに座り直して、テレビの方を見ながら私は歌い始めた。
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