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「この先だね」
やっぱり神楽君は楽しそうで、躊躇することなく脱衣所を通り浴室に入ると、飛び散った血の痕で内側を染めているカーテンを掴んで、一気に引いた。
シャッ
出っ放しのシャワーを頭から浴びて、浴槽にぐったりと沈んでいる女性がいる。
「君が『歌死魔さん』だね」
神楽君の冷静な問いかけに、彼女は反応した。
神楽君を見上げて、微かに頷く。
「––––、––––」
すぐに彼女は、血の気のない唇を動かし始めた。でも言葉になっていない声が響くだけ。
彼女を見下ろす神楽君は、小首を傾げた。
私とリーダーと潤君は浴室の中に入らずに、2人の様子を固唾を飲んで見守る。
「君に、触れてもいいかい?」
そう言って、神楽君は手を差し出した。
すると、彼女も手を伸ばす。
神楽君は片膝をつくと、彼女と目線の高さを合わせてから、手を握った。
「………」
こちらに背中を向けている神楽君は無言になる。
しばらくの間、無言のまま身動き一つしなかった神楽君は…
「–––…なるほどね」
1人納得したように呟いて、彼女から手を離すと立ち上がった。
「君のその未練はこちらで晴らしてあげよう。その代わり、彼女にかけた呪いを解くように。それが交換条件だ」
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