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コインロッカーの前に戻ると、スーツを着た若い男性が待っていた。
私たちに気づいて微笑む。物腰が柔らかそうな雰囲気の人だ。
「君たちだね、優子のことで電話してきた高校生は。俺は優子の幼なじみの、藤沢良だ」
藤沢さんと短い挨拶を交わし、私たちは管理会社に向かいながら話をする。
「『歌死魔さん』の話は俺も聞いたことがあるよ。カラオケ店で起こる心霊現象の内容を知った時、その幽霊の正体が優子だとは信じたくはなかったよ…。死んだ後も苦しみ続けて、しかも人を呪っているだなんて、こんな噂は大嘘だって思いたかった…」
駅のすぐそばにあった管理会社のビル前。
藤沢さんだけが中に入って行き、私たちは外でしばらく待機した。
やがて出て来た藤沢さんの手には、スマホが握られていた。
「受け取ったよ。間違いなく、機種変の前に優子が使用していたスマホだ。これを、優子のおばあさんに渡せばいいんだね?」
私たちは返答に困った。
そのスマホをどうすればいいのか、それを知っている人は…
「…違う」
神楽君が、低い声でぽつりと呟いた。
藤沢さんが、え?という顔で、潤君の隣に立つ神楽君を見る。
「彼女はそのスマホに、オリジナルの曲を録音していた。その曲は、貴方への贈り物の曲です」
「俺に?」
「誕生日プレゼントの曲だと、言っていました」
神楽君はそうきっぱりした口調で言った。
藤沢さんは驚いた表情のまま、手元のスマホに視線を落とす。
「誕生日プレゼント……。あぁ、そっか…」
納得したように呟いた藤沢さんの声は、微かに震えていた。
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