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唐突に、鈴村さんが言った。
みんなの視線が、怪しげな笑みを浮かべている鈴村さんに向けられる。
心霊話…?
「『歌死魔さんの呪い』って聞いたことない?」
「あ、その名前聞いたことある〜!」
「どっかのカラオケに出るって幽霊でしょ?あ、まさか…」
「そう。そのカラオケ店がここで、しかもこの601号室が、心霊現象が起こる問題の部屋なの」
鈴村さんは楽しそうに笑う。
話が逸れてくれたことに、内心ほっとした。
カシマさんの呪い…2人は知ってるんだ。私はぜんぜん知らない。
「…カシマさんって、何?」
尋ねると、鈴村さんが「あ、篠岡さん知らないんだ。じゃあ簡単に説明するね」と言って、みんなに声が聞こえるように上体をかがめて話し始めた。
「カシマさんの漢字はね、歌うの『歌』に、死ぬの『死』、魔は、魔物の『魔』だよ。
『歌死魔さん』は20歳の女子大生で、将来歌手になる夢があった。それで、時間があればこのカラオケ店の601号室で1人練習をしていたの。
けど、『歌死魔さん』の家庭は凄く貧乏で、お酒にギャンブルに明け暮れる父親は、母親と『歌死魔さん』に毎日暴力を振るっていた。ある日、父親は『歌死魔さん』に暴力を振るった挙句に、彼女の舌を切り落としたの。
父親は逮捕。母親は精神的に病んで入院。『歌死魔さん』は歌えなくなってしまった絶望から、お風呂場で、自ら喉を掻き切って自殺をしてしまった」
かわいそう…、と、思ってしまった。
「このカラオケ店の601号室に来るお客さんの中から、特に歌声が綺麗な人に『歌死魔さん』は嫉妬して、呪いをかける。呪われた人の夢に『歌死魔さん』が現れて、何かのメッセージを伝えてくるんだけど、それがわからないままだと、その人は数日後に死んでしまうって話」
鈴村さんの話が終わると、場はしんとした。
空気がまた、重くなる…
佐々木さんが「も〜、怖すぎ!」と無理矢理明るい声を上げた。
「やめてよ〜、もう怖くて歌えないじゃん」
「まぁ最近聞いた噂話だし、都市伝説みたいなものだよ」
「たしかさ、都市伝説に同じ名前のやつあったよね。体の一部を奪われて死ぬってやつ。懐かしいなぁ」
「も〜!2人ともやめてってば!」
両耳を塞いで怖がる佐々木さんに、鈴村さんと川村さんが可笑しそうに笑う。
私は何も言わずに、視線を落とす。
と、その時。
ザ、ザザッ、ザーーー…
部屋の壁掛けテレビが急に砂嵐になって、大きなノイズが響いた。
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