長谷川雅也、30歳。チューリップの妖精を拾いました。

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俺、長谷川雅也(はせがわまさや)は子供の頃から人と関わるのがあまり得意では無かった。内気な性格であまり自分から同級生に話しかける事もなく、友人という友人がいないまま30年。 唯一自慢できるのが学力だけだった俺はそれなりに良い大学を出て有名企業に勤めている事くらい。 とはいえ、実際に働いてみるとかなりブラック企業だった。 そんな会社に7年近くいる俺はおかしいのだろうか。 「はーせーがーわ! なんだ、この資料は!」 「申し訳ございません!」 「全くお前は本当ーに使えないな。こんな資料すらまともに作れない。最初から田中に任せるべきだったよ」 課長は今日も俺にきつく当たる。 資料を作成した本人の目の前で資料をシュレッダーにかけるようなパワハラ上司に毎日毎日何かしら嫌味を言われる日々。 よく今日まで生きてるよ、俺。 「あの、もう一度作り直しま……」 「もういい。お前なんかに期待しても無駄だしな。一年目の田中を見習えよ。あいつは仕事ができる、学歴しかないお前と違って有能だよ」 何で今日も生きているんだろうか。 こんな地獄のような会社で稼いで、ただ食べて寝るだけの日々を繰り返して。 心療内科で貰った薬を飲んでも、なかなか気持ちは晴れない。 俺以外の会社員でも理不尽な目に遭ってる人間はたくさんいる。だけど、彼らには充実したプライベートがある、家族を守る為と使命感を持って働く者もいる。 それが俺には無いのだ、悲しい事に。 いい加減、癒しが欲しい。 だけど、ペットを構う時間はそんなに取れるとは思わない。癒されたいからという理由だけでペットを飼うのは無責任だ。 せめて花くらいは育てても良いか……。 久しぶりに仕事が早く終わった俺は会社の近くの花屋に立ち寄った。 チューリップなら昔家で栽培した事あるし、好きな花だからちょうど良い。 「すみません、チューリップ育てたいんですけど」 俺はチューリップの球根を一つ購入した。 まさか自分の些細な行動が人生を変えるきっかけになるとはこの時は思いもしなかった。
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