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気候が暖かくなるにつれ、チューリップは順調に育っていった。
そろそろ一輪の花が見られると感じたのは3月下旬の事。
水やりを始めた瞬間だった。
突然、土から強い光が放出され、俺はあまりの眩しさに瞳を閉じた。
何が起きたんだ……?
突然の事に戸惑いつつ、数分が経つと恐る恐る瞳を開けた。
その瞬間、目の前には5歳くらいの赤いチューリップのような髪色をした男の子がしゃがみ込んでいた。
「えっ! 君、一体どこから?」
「おにいしゃん……おにいしゃんが僕のパートナーなんだぁ!」
今迄誰からも向けられた事の無い無邪気な笑顔に戸惑いながら、俺は状況を整理する。
ここはマンションの10階の一室。
ベランダには侵入可能な経路は無いし、家の鍵も毎晩しっかりと閉めているはずだ。
目の前にいる彼がどこからやって来たのか全く分からない。
先程まで一切人の気配なんて感じなかったし。
「君、お父さんお母さんは?」
「僕はチューリップのようしぇいだよ! 生まれた時、一人だよ!」
「は? チューリップの妖精?」
まさかまだ夢を見ているとか?
自分の頰を抓ってみると、痛みは確かにある。
「おにいしゃんに出会えて嬉しい!」
「えーっと……」
「僕はね、おにいしゃんを幸せにしゅる……チューリップから生まれたチューリップのようしぇいなんだよ! おにいしゃんと仲良しこよしなりたいなぁ!」
「チューリップの妖精ってさっきからやたら言うけど……」
「これならチューリップのようしぇいって分かるかな? えいっ!」
彼が手を振った瞬間、いきなりベランダの地面からチューリップが大量に生えて来た。
「えっ! 何が起きたんだ!?」
「あとね、チューリップに変身も出来るよ! ほら!」
彼は突然、チューリップへと姿を変える。
やばい、一気に色々起きすぎて頭が追いつかない!
「ほ、本当にチューリップの妖精……」
今目の前で起きた事を並べてみたら人の子だとは説明がつかない。
「ほんとのほんとなんだよ!」
「そ、そうか。あ、やば! もうこんな時間! 会社行く準備しないと……」
「おにいしゃん、お顔青いよー?」
「昨日夜遅くまで残業しただけだ。あぁ、どうしよう」
この子の扱いどうしたら良いんだろう。
実家に預けに行く時間も無い。
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