長谷川雅也、30歳。チューリップの妖精を拾いました。

3/10
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
気候が暖かくなるにつれ、チューリップは順調に育っていった。 そろそろ一輪の花が見られると感じたのは3月下旬の事。 水やりを始めた瞬間だった。 突然、土から強い光が放出され、俺はあまりの眩しさに瞳を閉じた。 何が起きたんだ……? 突然の事に戸惑いつつ、数分が経つと恐る恐る瞳を開けた。 その瞬間、目の前には5歳くらいの赤いチューリップのような髪色をした男の子がしゃがみ込んでいた。 「えっ! 君、一体どこから?」 「おにいしゃん……おにいしゃんが僕のパートナーなんだぁ!」 今迄誰からも向けられた事の無い無邪気な笑顔に戸惑いながら、俺は状況を整理する。 ここはマンションの10階の一室。 ベランダには侵入可能な経路は無いし、家の鍵も毎晩しっかりと閉めているはずだ。 目の前にいる彼がどこからやって来たのか全く分からない。 先程まで一切人の気配なんて感じなかったし。 「君、お父さんお母さんは?」 「僕はチューリップのようしぇいだよ! 生まれた時、一人だよ!」 「は? チューリップの妖精?」 まさかまだ夢を見ているとか? 自分の頰を抓ってみると、痛みは確かにある。 「おにいしゃんに出会えて嬉しい!」 「えーっと……」 「僕はね、おにいしゃんを幸せにしゅる……チューリップから生まれたチューリップのようしぇいなんだよ! おにいしゃんと仲良しこよしなりたいなぁ!」 「チューリップの妖精ってさっきからやたら言うけど……」 「これならチューリップのようしぇいって分かるかな? えいっ!」 彼が手を振った瞬間、いきなりベランダの地面からチューリップが大量に生えて来た。 「えっ! 何が起きたんだ!?」 「あとね、チューリップに変身も出来るよ! ほら!」 彼は突然、チューリップへと姿を変える。 やばい、一気に色々起きすぎて頭が追いつかない! 「ほ、本当にチューリップの妖精……」 今目の前で起きた事を並べてみたら人の子だとは説明がつかない。 「ほんとのほんとなんだよ!」 「そ、そうか。あ、やば! もうこんな時間! 会社行く準備しないと……」 「おにいしゃん、お顔青いよー?」 「昨日夜遅くまで残業しただけだ。あぁ、どうしよう」 この子の扱いどうしたら良いんだろう。 実家に預けに行く時間も無い。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!