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チャイムが鳴ったらあの人が来る。
丸めていた背筋を伸ばして、窓ガラスで身だしなみをチェック。ふわふわのくせっ毛は念入りにお手入れしてるだけあってチャーミングだし、ぱっちりした瞳はキラキラと輝いている。鼻の形も口元も整っているし、見た目のかわいさならテレビに出ている子にも負けていないだろう。実際にだれよりもモテている。
(なのに、先生ってば全然興味なしなんだもん)
私の想い人は先生である。そう言ったらアキは、あんなやつのどこがいいんだと悪態をついたので、すかさずビンタを食らわせてやった。ギャーギャー騒がれたけど、爪を立てなかったことに感謝して欲しいくらいだ。
(まあ、年は離れてるけどそこは仕方ないっていうか、大人だったらみんなそうだし? クールでつれない感じが素敵なのに)
愛想はないけれど、悪い人ではないはずだ。ユウコは先生の教え方は丁寧でわかりやすいと言っていたし、お母さんもあの先生は礼儀正しくて感じがいいと言っていた。
「おはようございます。今日はこのあいだの続きから」
キリッとした声が耳朶を打つ。淡々と話す声は物静かで、目を閉じると眠ってしまいそうになる。でもそんなもったいないことはできないから、窓辺の片隅でじっと熱視線を送るのだ。
ときどき目が合っても、先生はすいっと目を逸らしてしまう。話しかけてもあまり答えてくれないし、しつこく呼んだら窘められた。まったく、冷たい人である。
(もっとアピールした方がいいかな。廊下で後ろから飛びついちゃうとか。でも、しつこいって嫌われたらやだし……)
たいていの人は私が声を掛けると喜ぶのに、先生はいつもそっけない態度で距離を取る。それとなくボディタッチを試みても、いい反応をもらえたことは一度もなかった。認めたくはないけれど、私は先生のタイプじゃないのかもしれない。
(かわいい系よりもクール系とかのほうが好きとか? だったら私に興味ないのもわかるけど)
かわいさならだれにも負けない自信がある。でも、きれいさや美しさは残念ながら兼ね備えていない。かわいさだけに磨きをかけてきたのだ。
(いっそ、先生に好みのタイプ聞ければいいのに。だれか代わりに聞いてくれないかな)
無理なことはわかっている。先生は勉強中に私語を挟まない。そのうえ、時間になると雑談することなくさっさといなくなってしまうので、距離を縮める隙がまるでないのだ。
差し込む光を浴びながら考え込んでいたら、なんだか眠くなってきた。今日はご飯を食べ過ぎたかもしれない。眠っちゃうとせっかくの時間が台無しになってしまうからと抵抗してみたものの、私はそのまま目を閉じてしまった。
「寝てるところ、初めて見た」
大好きな声が耳を打った。パチリと目を開けると、先生が上から私を覗きこんでいた。先生から声をかけられたのはこれが初めてで、思わず顔を上げてしまう。先生の眼鏡に私のまんまるな瞳が映っていた。
「失礼。授業を続けます」
あっけなく視線を外す先生に私は焦る。今を逃したらもう機会はないと思って、私は先生の背中に飛びついた。
「おっと」
「あ、ごめんなさい先生!」
背中からお日様の匂いがした。私もお日様を浴びたばかりだからお揃いだ。存分に堪能したかったのに、立ち上がったユウコに引き剥がされる。
「もう、なにやってるのハル! 先生、大丈夫ですか?」
「はい、ちょっと驚きましたけど。……昼寝邪魔されて怒ったかな」
ユウコに抱きかかえられた私に、先生が顔を近づける。今度は眼鏡に私の姿は映ってなくて、先生の顔がはっきりと見える。私はその顔めがけて、ニャーオと鳴いた。
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