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私の影と本当の私
「似奈ー! 丁度いいところでこんにちは!」
放課後になった途端三人の女子が似奈(ニナ)の周りに集まってきた。
「ウチらの分まで掃除よろしくね?」
「ウチら昇降口で待っているから、掃除が終わったら来てくれるよね?」
「もちろんウチら全員のバッグを持ってだからね?」
「・・・」
三人が続けて言うのを似奈は黙って聞いていた。 三人のうちの一人がロッカーから箒を取り出し似奈に押し付けるよう渡してくる。
「じゃあよろしくねー!」
三人は笑いながら手ぶらで教室を出ていった。 似奈は中学生ながら雑用係をやらされ嫌になっていた。 傍から見ればいじめに見えるだろうが、それを自分で認めたくなかった。
仕方なく彼女たちの分まで掃除を始める。
「・・・あれ? 白鳥さん、女子は一人?」
掃除をしていると近くから声がかかった。 顔を上げてドキッとする。 目の前に似奈の好きな人、壮也(ソウヤ)が立っていたのだ。 ドキドキして言葉を失う。
「白鳥さん? どうかした?」
「あ、えっと、うん。 一人・・・」
「確か教室掃除って赤井たちだったよな・・・。 またアイツらサボったのか」
赤井(アカイ)というのは先程の三人グループのリーダーだ。 壮也は廊下へ出て大声で言った。
「おーい、赤井ー! 白鳥さんを一人にすんな!」
「だって似奈が代わってくれるって言うんだもんー!」
赤井たちは大分遠くへと行ったのだろう。 二人の会話はギリギリ聞こえていた。 数回やり取りをすると壮也が戻ってくる。
「白鳥さん、俺も手伝うよ」
「え、でも・・・」
「女子一人で教室掃除はキツいと思うから。 白鳥さんは黒板をやって」
そう言って似奈の握っている箒を掴んだ。 その瞬間少し手が触れ合いドキッとした。 照れた顔を隠しながら黒板へと駆けていく。
―――・・・壮也くん、もうすぐ誕生日なんだよね。
―――プレゼント、渡せるかな。
似奈はこれからの予定にドキドキしていた。 掃除が終わると赤井たち三人の分のバッグを持って教室を出る。 それを見た壮也が言った。
「それ、赤井たちの荷物だろ? なら持っていくなよ」
「ううん。 これは約束しているから」
「約束って・・・」
「今日は手伝ってくれてありがとう。 嬉しかった」
そう言って深くお辞儀をすると昇降口へと駆けた。 確かに毎日赤井たちにパシリにされるのは嫌だ。 だがそれも壮也が助けてくれるから乗り越えられているというのもある。
壮也と話せて今日も気分がよかった。 この後は結局三人のバッグを持ちながら各々帰宅した。 家へ着いた似奈は持っている鍵でドアを開ける。
「ただいま・・・」
「おかえり、似奈。 今日の学校はどうだった?」
「う、うん。 いつもと変わらないかな」
「そう。 ご飯ができるまで待っててね」
家に帰ると母が温かく迎えてくれた。 わざわざキッチンから顔を出して言ってくれたのだ。 母に学校でパシリ役をやらされているだなんて到底言えなかった。 だから無理に笑顔を作ってやり過ごす。
家族には心配をかけたくなかったのだ。 確かに壮也のおかげで救われていることは事実。 だが母に秘密を隠していると思うと気が重くなった。
―――・・・学校、行きたくないな。
そう思うことがよくあった。 二階へと上がり自分の部屋を開ける。 するとそこで驚くことが起きた。 誰もいないはずの部屋に誰かが立っていたのだ。
「・・・誰?」
似奈は一瞬人ではなく大きな鏡があるのかと思った。 そこにいたのは、朝鏡で見る自分自身の姿にそっくりだったからだ。 もし動きも真似てきたなら鏡だと信じて疑わなかっただろう。
「誰って似奈だよ」
「似奈は私だよ」
「そう。 似奈はアンタで、アタシも似奈」
よく言っていることが分からなかった。 だが目の前の現実に答えを付けるとしたらこうだ。
―――ドッペルゲンガー?
だけどどこか違うような気もする。
「知っているよ。 アンタさ、学校でパシられているんだって?」
「え、どうしてそれを・・・」
「安心しなよ。 アタシが代わりに学校へ行ってあげる」
その言葉は救いの言葉だった。
「本当に?」
「うん。 だってアンタ、辛そうなんだもん。 ずっとこの部屋に引きこもっていなよ。 そしたら楽でしょ?」
学校には行きたくなかったが家族に不審がられるため実行はできなかった。 だからその言葉は似奈にとってとても都合がよくて反射的に大きく頷いていた。
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