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柊は『銀柊荘』の四代目、現当主として昨年から流行している病気のせいで来館出来なくなった顧客のために花火を打ち上げた。
その模様をインターネットで生配信する形で『お届け』をした。
四合瓶は形あるその証しの様なものだった。
当初はその時の花火の写真をプリントアウトしたものを貼ろうかと考えていた祐司だったが、柊が「是非とも絵にしてもらいたい」と自ら申し出てきた。
曰く、「元もとの『雨夜の月』の雰囲気を損ないたくない」とのことだった。
ちなみに『雨夜の月』の一般品の商札は酒名を揮毫、――毛筆で記した書だった。
そのままの光景を描くのにはそもそもの無理が、矛盾がある酒名だ。
そのための打ち合わせが、祐司が柊と全くの二人きりで話した初めてだった。
小さな温泉街の、小さな町だ。
小、中学校が一校ずつ在るだけだった。
都合、同い年の子供たちは皆同窓生となる。
しかし、祐司は学生時代に柊と話したことがほとんどなかった。
同じ『老舗』の生まれだというのに柊は別格に思え、気も腰も引けた。
大人たちから自然と漏れ伝わってくる『銀柊荘』の、岸間の家の話だけが祐司にそう思わせていたわけではない。
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