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 ただ、薬指にピッタリとはめられている鈍く、――しかし確かに光る銀の細い指輪の冷たさを全く無視することは出来ない。 気にならないと言えば嘘になる。  柊は正式に『銀柊荘』の四代目となったにもかかわらず、未だに『若旦那』と呼ばれ続けているのは祐司の耳にも入っていた。 それ以上のこと、例えば『身を固めた』的なことまでは聞き及んでいない。   一方の祐司はと言えば、昔から『銀柊荘』と付き合い(取引)がある蔵元の長男坊だった。 コチラの方は柊とは異なり未だに継いでいなかった。  祐司の父親の(たかし)健在だ。 その父親が絶賛現役続行中のおかげで、祐司は繫忙期である一月にこうして顧客の接待にかまけることが出来る。  今夜の柊は(ねぎら)いとお礼と述べるためにわざわざ後藤酒造を、祐司をたずねてきていた。  今回、後藤酒造では酒蔵の顔、――ワインで言うところのファーストラベルである純米大吟醸酒『雨夜(あまよ)の月』の四合瓶の商札(ラベル)を特別に(あつら)えた限定品を製造した。 『銀柊荘』が顧客へと贈るための品だった。
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