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 岸間柊は祐司にとって他の同窓生たち、つまり友人たちとは全く異なる存在だった。  それが世間一般的には『憧れ』と呼ばれている感情だと、祐司が自分で気が付いたのは小学六年生の時だった。 中学校に入って間もなく、『恋』へと名前を変えた。  素裸の柊と抱き合う夢を見た翌朝、祐司の中で同窓生の岸間柊はすっかりといなくなってしまっていた。 だからといってその代わりに他の柊が居たことは未だに、ない。  実際の、現実の岸間柊は生家の後藤酒造とも、町で一番の老舗温泉旅館『銀柊荘』の跡取り息子だった。 今や、立派にその跡を継いだ四代目だ。  そんな柊が前後不覚にも、自分の目の前で寝入っている――。 祐司はそれこそ夢を見ているかのようだった。。  つい二時間ほど前、風呂敷包みを片手に後藤酒造を訪れた柊のはいつもと変わらずに和装、着物姿だった。 濃茶のような緑、中青(なかあお)の着物の上に土色よりはやや薄い、くっきりとした砂色(ベージュ)淡香(うすこう)の羽織を着込んでいた。  柊の着物と羽織りとは、(かさ)色目(いろめ)では『枯色(かれいろ)』と呼ばれる冬の組み合わせだった。
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