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 好き放題、やりたい放題の地球人を尻目にベイ将軍は諦めることなくヴォーグ人との交渉を続けていた。  ベイ将軍は人類の守護神として尊敬される人格者であり、好人物である。ヴォーグ人もその人となりは短い交渉時間の中でも認めざるを得なかった。ベイ将軍の願いは、今ある高次文明をすべて捨てても、たとえそれが原始に戻ることになるとしても絶滅だけは容赦して欲しいという事だった。  ベイ将軍はヴォーグ人にひれ伏して嘆願した。  ヴォーグ人の答えは「ノー」だった。ヴォーグ人はひれ伏すベイ将軍の手を取り立ち上がらせると、あくまでも紳士的に応対した。 「ベイ将軍、考えてみたまえ。もし今、滅亡を免れても、いずれ人類は同じ道を自ら歩むことになる。君は旧約聖書のバベルの塔を知っているだろう。暗示も教えも通用しない。あきらめなさい。良かったら君、我々と来る気はないか。君が望むなら ヴォーグ人になれるぞ」 「えっ? ヴォーグ人に……わたしが」 「ほらモニターを見てみなさい。 君が誠心誠意、命をかけて守ろうとしている地球人の姿がアレだ」  モニターには醜く物を奪い合う人間の姿が映っている。あちらこちらから火の手が上がっているのも見えた。ベイ将軍はもう何も言えなかった。 「だろ? 救う価値は無いのさ、残念だけどね。君は地球を見限ってヴォーグ人になりたまえ。君は失うには実に惜しいエイプだ」  というヴォーグ人からの強い勧誘を受けて、ベイ将軍は躊躇しながらも承諾したのだ。そしてベイ将軍は金色の全身タイツを支給された。それは着ればすぐに皮膚として定着するという優れ物のスーツだった。彼はそれを受け取り早速身に着けた。地球を捨てるという決意をしたのである。    ベイ将軍はまだ体に馴染まないユルユルの全身タイツ姿で、モニターの中の暴れまわる同胞を見て少し泣いた。それは哀れみだったのか、いや純粋な悲しみである。宇宙レベルでいえば間違いなく彼らはベイ将軍にとって家族だったのだ。    
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