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Ⅲ
夜が明けて人々は、はたと気づく。
四六時中ヴォーグ人が映っていたモニターは花畑の静止画になり、そこには「グッバイ」の文字が──。いつの間にか地球からヴォーグ人の姿は消えていたのだ。 果たしてヴォーグ人による占拠は終わったのか。
人々は外に出てみて、外の景色に違和感を感じた。いやそれは違和感どころではない。見た者はみな絶句した。
外はただただ無機質の世界。 温かみのあるものが世界から一切消えていたのだ。まず街路樹が消えている、早朝にさえずる鳥の姿もない。ゴミを荒らすカラスもいない。ペットショップも空になり、飼い犬も飼い猫もいなくなった。公園の池で泳いでいた鯉も亀もいない。
「どこ行っちゃったの?」
あちらこちらに首輪を手に、ペットを探す年寄りの姿があった。
動物園の飼育員は出勤するなり檻の中の動物がみんな消えている事に気付き、ぼう然と掃除用具を取り落とした。牧場主は「ミルクでも搾りにいくっぺ」と牛舎に向かったが、そこはもぬけの殻だ。松阪牛も神戸牛もフライドチキン用のニワトリもすべて窮屈な囲いから消えている。
動物どころか植物も菌類も人間以外の生き物全てが地球からいなくなったのだ。早朝の都会の静寂に、人間がせっせと積み上げたビルディングだけが柱状節理のように、にょきにょき天高く伸びていた。
ヴォーグ人と交渉していたベイ将軍も防衛前線から消えた。人々は早くも刑が執行されたことに気づいた。
『手は下さず放置する』
植物が草木の一本も地球から無くなったということはもはや光合成などない。酸素も作られず気温の調整も出来ない。当然、ほかの生物が姿を消したからには食物連鎖も終了した。
人々は直感した。これは今あるものを奪い合うしか道はないのではないか──。
彼らはこの場に及んでやはり殺し合いをしてまでも、残された食物を奪い合うのだろうか。
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