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 ベイ将軍は宇宙船の窓から地球を見ていた。青くて美しい地球だ。しかし地球がいつまでも美しい青を保つ事は不可能であろう。   地球人は暫らくは食料や水分を貯蔵品で食いつなぐだろう。しかし食料は底をつき100億の人々はそう遠くない未来に絶滅する。自明の理というものだ。  ここで地球の植物や動物がどこに消えたかを説明しておこう。  人々が動植物がいなくなったと気付く日の未明、その大移動は決行された。すべてがヴォーグ人の特殊なスキルによって宙に浮かんだ。それは宇宙規模では軽微な動きでも、地球レベルでいえば壮大なスケールで──。  それら動植物たちは夜空で一つになり、雄大な天の川のように長く長く連なって、星々が煌めく宇宙の彼方へと消えたのだった。    言えば巨大なノアの箱舟。  地球から救い出された動植物は、今頃は銀河のどこかの星で息を吹き返している事だろう。人間のいない新天地で伸び伸びと自由に生きるのだ。  ベイ将軍は自分を含めた地球人に他の生き物へのリスペクトがあればこうはならなかったと、他の生物の犠牲の上に成り立った近代文明を振り返り胸を締め付けられた──がしかし、鏡を見れば先程身に着けたスーツは見事にぴったりと皮膚となり、もう立派なヴォーグ星人になっている。  ヴォーグ人の寿命は聞くところによると果てしないと。ヴォーグ星に戻ればスーツを脱ぎ、もはや意識だけの存在となる。宇宙人スーツは地球の地の実感を得る手段であり、人類にヴォーグ人の存在を理解し易くするためのものだったのだ。寿命など、その概念すらない。  ベイ将軍は遠ざかる地球を見ながら感傷に浸った。果てしなく生きていく中で、いつまで地球の事を憶えていられるのか、又地球を訪れる日は来るのだろうかと。果たしてその時、地球に新たな生物の姿はあるのか。ベイ将軍は宇宙船の窓から別れを告げる。さらば地球よ。さらば地球人よ。どうか安らかに眠りたまえ。  最後にベイ将軍は声に出して呟いた。    God Bless You.
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