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彼の厳しい言葉が刃のように刺さる。そして満風はそっと自分の手の甲の痣、そして爪を見た。目のような形をした痣は証である。
だがしかし、満風のそれは封じられていた。昔は透明のガラスのようだった爪も今ではただの白い爪だ。
「満風、揲を連れてこい」
「あいつに何をするおつもりで?揲はまだ潝の力に目覚めておりません!」
「ならばその力を無理やりにでも解放させるまでだ」
そう言う鐐の目にはかつての優しい光は無かった。絶望した、そしてようやく気が付いた。満風にとって大事なものは稀珀の再興でもなんでもなく、揲の――たった一人の愛しい妹の笑顔だ。
「……話が違います。揲を無理やり巻き込むのはいくらあなた様といえど兄である俺が許しません」
満風は鐐を睨みつけるが、彼の口からは「そうか」と別段興味なさげな一言が呟かれるだけだった。
そして鐐は意味ありげに彼のそばに控える屈強な男たちへ目配せをする。
「やれ」
なんの感情もない平坦な声が聞こえたかと思うと、次の瞬間満風の身体に強い衝撃が走った。熱くて、ヒリヒリする。斬られたのだ、と気づくのに少し時間がかかった。
「満風、残念だ。お前はもう少し利口なやつだと思っていたよ。結局何の役にも立たなかったな」
意識を失う直前で、鐐の冷たい声音がぼんやりと聞こえた。そして己の身体は冷たい地面にドサッと打ちつけられる。
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