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「でしたら若宗主!私に先陣をお任せください!」
揲は鐐の気を引きたくてそう言って勢いよく手を挙げた。
「馬鹿者!女子のお前にそんな名誉のある大役などつとまるはずがない!
先陣だぞ、お前のことだから一番のりに死ぬだけだ」
年上の体格の良い男に怒鳴られる。
睨み返してやると男は眉を逆立てて揲の方へ寄ってきた。
「まったく……調子に乗りやがって……お前もだ満風!御潴では身の程をわきまえるということを教えていないのか?」
ギョロリと男の目玉が音を立てて動いたような気がした。
相手は挑発しているだけだ。その巨躯には単純な力比べで勝てるわけがない。
それに恐ろしかった。揲を見下ろす相手がいつもの数倍は大きく見える。金縛りにあったように体が動かないでいた。
「もういい、あまり年下をいじめるな」
見かねた鐐が呆れたように言った。きっとどちらにも呆れていたのだ。
乱暴な男に、臆病な揲に。
たして二でわると調度良いのに、と頭の中で勝手に計算式をたてる。
そんな自分がひどくみじめだった。
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