第二話 真龍

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 ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。けれども彼はまさか、と言って笑い飛ばすだけでまともに答えようとはしない。 「なぜ余がお前に嫌がらせをする必要がある?  ただ、そろそろお前もはっきりした方が良いのではと思ってな。もしあの娘と余が争うことになったら……篤驥はどちらの味方をする?」  やっぱり嫌がらせと同じじゃないか! 、と篤驥は心の中で舌打ちをした。 「私の主はいるとしかお答えできません」  そう言うと今度は龍が舌打ちをした。それも篤驥に聞かせるための大きな音で。  しばらく二人はにらみ合うとやがて龍はまあいい、と足を組みなおした。 「お前の話なんぞはどうでもいい。  問題はあの娘だよ。  篤驥、お前がみるに揲とはどんな娘だ?」 「客観視を求めるのなら私にふらぬほうがよろしいかと。あの方に対する私の客観はドロドロに腐っておりますゆえ」  皮肉まじりに言うと龍は面白そうに笑った。 「ならやめておこう。  揲を城へ連れてきたのはイチかバチかの策だった。あの娘は特別だ、味方につくと心強いし、敵にまわるとそれこそ『終わり』を意味する」 「……宗主は何のために揲様をこの城に呼び寄せたのですか?  確かに先の稀珀(きはく)攻めは妙でしたが跡継ぎを見つけるなんて話、あの時初めて聞かされましたが」  そうまくし立てた後、篤驥は茶の最後の一口を一気に口へふくんだ。苦いともうまいとも思わなかった。 「跡継ぎの件は口から勝手に飛び出してきたゆえ偽か真か自分でもよくわからぬ。  ただ稀珀攻めの首謀者は何か企てているのであろうな。まことの忠臣であったのなら『ほめろ、ほめろ』と余にしっぽを振って報告するだろうに」  正体が知れぬからこそひどく不気味に感じる。    篤驥が思うに龍は相当疑い深い。一代で夕雩家を国内で最高の権力を持つ家にしたのはまぎれもなくこの人だ。時には汚い手も使い、多くの人からどす黒い恨みをかっているだろう。  だからこそ人間の汚い感情を知っている。成り上がり故の生き抜くためのを身に付けている。 「揲が選ぶ人間はまぎれもなく『真龍』なのだろうな」  独り言なのかそうでないのかわからないほど小さな声だった。けれど返事をしなくても気にしていないようだからやはり独り言だろう。 「……余が『』だ」  次に彼が発した言葉はただの独り言ではないようだった。  独り言として言葉が宙をさまようのではなく彼自身が自らに言い聞かせているかのような生きた独り言だった。
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