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この人が俺の女神だ、と牢を覗いて確信した。
彼女には不思議な魅力があった。
だから「牢にとらわれた美しい娘がいる」という噂が村中を独り歩き回ったのだろう。
俺も友と二人、金時計が目印のその牢を外から覗きに行った。彼女の姿を初めて目にした時、俺の身体に雷のような激しい衝撃が走った。
それは友も同じらしく、目を見開いて貪るように娘を見つめていた。
俺たちはその後も足しげく彼女のもとに通った。行く時間は決まって牢番の眠っている夜。野ざらしにされた牢で彼女はいつも寒そうにちじこまっている。
一月ほど通ううちに俺の中で欲が静かにうごめきだした。
彼女の美しい瞳をずっとみつめていたい、みつめられたいと思ってしまった。
娘をあの檻から解き放ってやりたい。友にそのことを告げると彼はわずかに顔をこわばらせた。
「失敗したらお前もあの娘も殺される」そう言って彼は強く反対した。失望した、臆病なヤツだと思った。俺に彼女をとられるのがそんなにも嫌なのか。
「もう少し待ってほしい。他にも娘を救う方法がある」
友の言葉に俺は憤慨した。ふざけるな! と怒鳴り散らした。
急がなければ彼女は殺される。
俺は友の生半可な態度が気に食わなかった。そして友も単純な思考だと俺に愛想をつかしているようだった。
「彼女を救えるのは俺だ」と吐き捨てるように言って友はその場を俺を残して足早に立ち去る。
その夜、俺は彼女を攫いに薄暗い牢へむかった。凍え死んでしまいそうな寒い日だった。
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