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「暴れているということはもう着替えは終わったのか?」
「違う!」
ボロボロの扉の外から聞こえた篤驥の声に揲は顔を赤らめながら吠えるように言った。
覗かれたらたまったものではないので慌てて着替えをすませ、戸をあける。
「終わったけど……、男の髪の結い方がわからなかった」
そう、揲は男装をしていたのだ。
女の武官など特殊な場合を除いては存在しないらしいから不用意に目立たないためにも周囲には男として振舞ったほうが良いという。
「存外いけるものだな。十三、十四あたりの男などそんなものだろう」
本当にそうだろうか、と一抹の不安を残しつつ武官として夕雩城に潜むということが実感できた。
その後、いろいろと文句を言われながらも篤驥に髪を結ってもらい見事揲の男装が完成した。
「あと、この組みひもって何?」
揲は何のためにあるのかよくわからなかった玉のついた白の組みひもを指さす。根付がついていたためなんとなく帯にぶらさげてみたがその用途はよくわからない。
「彩玉紐のことか?」
サイギョクジュウ、という聞きなれない言葉を揲は舌で転がしてみた。そしてもう一度帯に付けた組みひもをみるとなんだかしっくりとその名がはまったような気がする。
「それは官位を表すものだ。
お前の彩玉紐はまだ白だろう?位があがるとそれが白、黄、翠、黒、青、銀の順で変わる」
なるほど、と思って篤驥の腰をみると彼は銀の紐三本に翠の紐一本をぶらさげていた。
彩玉紐は一本ではないのだろうか。
「あなたがそんなに紐をつけているのはどうして?」
「一つの紐が最高位の銀に染まるともう一本また白の紐を与えられる。
その繰り返しで六つの紐が全て銀になったら『陸銀条』……武官の頂点に立つことが許される」
またもや『陸銀条という初めて聞く単語に揲は首をかしげる。
『条』とは細長いものを使う時に用いる単位だ。この場合は彩玉紐のことを指すのだろう。
「陸は彩玉紐の本数をさして、銀はその色を表すってこと?」
我ながら頭が良いと得意気な顔で篤驥に言ってやる。
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