第三話 女武官

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榛雅(はるまさ)は首をかしげて揲の発言をゆっくりかみしめるように深く考え込んだ。  何か言わなければ、と思ったものの頭が真っ白になり言葉がでてこない。 「榛雅、『揲』はコイツの幼名だ。  ほら、体つきもまだ子供だろ?」 見かねた篤驥が慌てながらも助け船をだしてくれた。 「まー、確かに。女の子みたいだよね、顔も可愛らしいし……」 そう言って榛雅は揲の顔をなめるようにジッと見た。  思わず一歩二歩と後ずさる。そうでもしないと彼の大きな目に吸い込まれてしまいそうだった。 「んー、何かどっかで会った気がするけど思い出せないや」  いろいろと考えることに疲れたのか彼は大きく伸びをした。  彼が揲の素性に気がつくのではないかと案じていたところはあった。  しかし、篤驥によると「先ほど顔を合わせたとはいえ榛雅は一度会った人間の顔を覚えられるほど頭が良くない」らしい。事実その通りだったと揲はホッと胸をなでおろした。 「俺は榛雅(はるまさ)、姓は蛇紋(じゃもん)。 あ、姓ってのは故郷のものをそのまま使ってるだけだから。 なんか宗主が勝手に俺の名を決めるのも癪だったし直訴して自分でつけた。名は一生俺のものだし」 彼らしい自由な理由だと思い自然と笑みがこぼれる。  しかし、『蛇紋(じゃもん)』という姓はどこかで聞いたことがあった。だが揲も頭は悪いので思い出せそうにないのであきらめることにした。 「よろしくお願いします、榛雅殿」 榛雅はうなずいて握手をもとめてきた。  握手が好きだなあと思いつつ再び彼と固く手を握り合う。 「この感触、なんか知ってる気がするんだけどなぁ……」 その発言にドキッとしたが榛雅は深く考えようとはしなかった。  勘は良いのだろうから熟慮という言葉を知れば彼の彩玉紐(さいぎょくじゅう)はもっとふえるのだろうな、と少しもったいなく思った。
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