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「よし、このままし、このまま宗主の元へ行くぞ」
篤驥の一言に面倒くさいと思いながらも揲は腰をあげた。
面白がって榛雅もついてこようとしたが篤驥の一睨みでおとなしく留守番することになった。
宗主——ややこしいから民に習って龍と呼ぼう——の部屋は城の一番高い三階にある。夕雩城そのものが小高い山の上にあるためそこからは城下を一望できた。
「宗主、揲様をお連れしました」
「入れ」という声と共に篤驥は両開きの扉をゆっくりとあける。
中には龍と一人の少年がいた。龍と同じ青い瞳をしていて艶やかな黒い髪は耳にかかるくらいの長さだったが風に揺らされ美しかった。
少年は揲たちが入ってきたことに気がつくと軽く礼をしてにこりとこちらに笑いかけた。そのまま彼が部屋を出ていくと龍は口の端をあげ揲に話しかける。
「あれは余の甥で彗という名だ。
分家である薊宮家の者でなかなかの知恵者でな。今日のように政の意見を求めることもある」
少し自慢するように彼は言った。
「だったらその人をあとつぎにすればいいじゃないですか」
仮にも主君に値する人物なので揲は昨日から少し言葉遣いを改めた。それに気がついたのかいないのか彼は一層笑みを深くする。
「そうだな、彗ならばこの夕雩を任せられるかもしれない。
しかしな、揲。優秀で才があり跡継ぎにふさわしいということは逆に言えば稀珀を滅ぼした……、お前の仇かもしれないぞ」
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