第三話 女武官

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 ハッとして彗という少年が消えていった扉を見た。  何がしたかったのかは自分でもよくわからなかった。 「彗に限った話ではない。 榛雅と会っただろう?あいつは悪く言えば自分勝手、よく言えば自由なヤツだ。余の飼い犬にもなろうとしない。そのほうが出世もたやすいのにな。  知恵はないが共犯がいるかもしれぬし何を考えているかわからないだろう?」 「……あなたは人を信じる、ということを知らないのですか?」 意図せず龍を攻めるような口調になってしまう。  きっと無意識のうちに前の主であった(りょう)と比較していたのかもしれない。逆に言えば揲は龍を主として認めようとしているということだ。  そんなことを考えた自分に少し驚きながらも揲は龍を見つめ続けた。 「そんなことはない、余は榛雅も篤驥も信用している」  そう言って彼はちらりと傍らに立つ篤驥に目をやる。当の篤驥は照れたのかすぐに視線をそらした。 「揲、彩玉紐(さいぎょくじゅう)の話は聞いたな? あれを与える基準はもちろん手柄だがそれともう一つ大切にしていることがある」 龍は少しもったいぶっていつもとは違う優しい笑みを浮かべた。 「その人物のことをどれくらい知っているかだ」 しばらく言葉がでなかった。当たり前のことであるのに初めて教えられたような不可思議な気分になる。 「例えば、ここにいる篤驥(とくき)という男のことを余は良く知っている。  忠臣に見えるがこやつはいつも前の主のことばかり考えている。困ったものだ。  榛雅はというとあれは昔刺客をやっていて我らから見れば厄介な連中の一人だった。  だが、それでも信じられる。時間をかけて信じると決めた」
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