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——武官としてこの城に潜み、仇をみつけだしたらどうだ?
夕雩家・宗主の言葉にその日何度目がわからないような強い衝撃をうけた。
「お前が王軍にいたころ、夕雩の武官は何人もお前に殺されている。その剣の腕があれば十分やっていける」
男の声も右から左に通り過ぎるだけで脳が痙攣したように何も考えられなかった。胸の鼓動が落ち着いてきたころ、ようやく揲は震える唇を動かした。
「私が仇を見つけてもお前らに言わなかったら意味がない。素直にお前の未来の跡継ぎとやらを教えてやると思っているのか?」
まさか、と彼は笑い出した。まるで幼子のようだ。
いや幼子の皮を被った邪悪な悪魔か。それを見極める力を揲は持っていなかった。
そしていつも自分の信じたいことを信じ、裏切られた。ここに連れてこられたのも嘘をつかれてのことだった。
「無論、こちらもすぐにお前を信じるわけにはいかぬ。篤驥」
手招きを受け、篤驥という武官は男の傍に膝を折った。
「お前の見張りとしてこの崋翔篤驥をつける。優秀な武官だ、下手に殺そうと考えるなよ」
釘をさされ、揲は内心チェっと舌打ちをした。こちらの考えを全て見透かされているようで不快だった。
「稀珀攻めの首謀者……お前の跡継ぎを見つけたらどうせ私を殺すつもりだろう?」
「殺されるつもりなのか?」
男は少し驚いたかのように問いただした。もちろん揲には殺されるつもりはない、そこからが夕雩家との戦なのだ。
権力者が嫌いだ、弱者の気持ちをわかろうともしない、自分だけが特別だと勘違いしている。利益のために平気で嘘をつく。
血と金に汚れた濁った目をしている。
「……全部嘘なんじゃないの?稀珀を滅ぼしたのはあなたで私を泳がそうとしているだけ」
揲は男の青い瞳を試すように見つめた。
彼は表情を変えなかった。逃げもせずジッと揲の視線をうけとめていた。それがなんだかとても悔しかった。
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