雨月ノ君ハ 冷タイ唇

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 にわか雨が通り過ぎ、店内に西日が差し込み始める。先程までガラス扉を濡らしていた水滴が、キラキラと虹色に輝いた。 「まさか雨が降るなんてね。茜ちゃん傘持ってないだろうなぁ……大丈夫かな?」  そう言って小咲が入り口扉を開けると、外から湿り気のある涼しい空気が入り込んだ。商店街通りへ一歩踏み出すと、駐車場のある店裏へと続く路地から、二人の人影が現れる。 「やぁ、茜ちゃんおかえり! 雨大丈夫だった?」 「店長、ただいまです。ちょうど物件の中に居たので大丈夫でしたよ」  小咲が扉を開けたまま二人を迎え入れると、奥のソファで座っていた忌一は、茜のを見て思わずギョッとした。   「忌一、来てたんだ……」 「蟹のお礼をわざわざ届けてくれてね。茜ちゃんに会いたいだろうから、戻ってくるまで中で待ってて貰ってたんだよ」  「早く帰ればいいのに」という茜のぼやきは聞こえておらず、忌一は白井の方をずっと凝視していた。  何だか嫌な予感がしたが、すぐに物件のファイルを忘れてきたことに気づき、白井に「そこのカウンター席で待っててくれる?」と言い残して、駐車場へと踵を返す。  茜が店を出ていくと、小咲も白井の分のお茶を淹れるよと給湯室へ行き、この場に二人だけが取り残された。  白井はおもむろに、「君にはもしかして、僕の本当の姿が見えているね?」と声をかける。 「はい。貴方はそこの神社の……」  内見で廻った物件の傍には、忌一の言う『白水(しらみず)神社』があった。神社の眷属と言えば狛犬や狐が有名だが、その神社は水神を祀っており、眷属は白蛇だ。忌一の鬼の眼には、白井の姿が大きな白蛇に見えていた。  どおりでこの店が商売繁盛するわけだと納得はするものの、神社の眷属が不動産屋で部屋を探すなんて、聞いたことがない。
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