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父が街に着いたのは夕刻遅くのことだった。街の中を夕日の光と灯火の明かりが照らしている。
父の背負う籠は、いつしか揺れなくなっていた。忌み子は眠ったのかあるいは諦めたのか、それは定かではない。
父がこの街に来たことは数えるほどしかなかった。道も勝手もわからぬまま、さまようごとく歩きまわる。
やがて、人気のない通りに入る。日がほとんど差さず、心なしか灯火も少ない。明らかに空気の色や質が違うそこを、父はきょろきょろと脇見をしつつ、おそるおそる歩いていく。
その場所に、普通の住人は近づかない。近づく者といえば、迷い人と――
建物の陰からふたりの男が現れ、父の前に立ちはだかった。
顔を覆面で覆い、目だけを外へ出した男たちを見て、父は思わず後ずさった。
その背が何かにぶつかる。振り返ると、別の男がひとり、やはり目だけの顔で父を見下ろしていた。
うろたえる父に向けて、男は荷物を置いていけと告げた。その右手には、鈍く光る短剣が握られている。
父はがくがくと頭を振り、背の籠を、男にぶつけるように押しつけた。
男が受け止め損ねて怯み、籠が地面に転がる。その隙に、父は脱兎のごとく来た道を逃げ去った。
男たちは父を追わず、転がる籠を見下ろす。
と、籠がガタガタと揺れた。男たちが顔を見合わせる。
何かの家畜だろう、そう判断した男たちが籠を起こし、被せてあった蓋を取り払った。
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