3

1/1
前へ
/12ページ
次へ

3

 どこともしれぬ、数本のろうそくだけが頼りの暗い部屋。その真ん中に、忌み子が転がされている。籠から出されたままの、縄で縛られ猿轡を噛まされた状態だ。  まわりでは、いずれも覆面を被り目だけを覗かせた男たちが、忌み子を見下ろしている。  忌み子は唸り声を上げながら芋虫のように(うごめ)いている。縄をほどこうとしているようだが、ぎりと締め上げられたそれは、忌み子の力ではびくともしない。  そこへ、ひとりの男が歩み寄った。すらりと背の高い、痩身(そうしん)の男だ。  男は、目を見開いて睨み上げる忌み子を見つめ――縛られたその手を踏みつけた。  忌み子がビクンと震え、たちまち目から涙があふれだし、次には口から苦悶の声が漏れる。  それを見て、男は足をどけて(かたわ)らに(かが)みこんだ。そして、忌み子の灰色の髪をひっつかみ、涙と鼻水とよだれで醜く汚れた顔を強引に上向かせる。 「黙れ」  冷たく放たれた声は高く透き通った――女の声だった。  忌み子は、しかし声の美しさや言葉の意味などお構いなしに、目を閉じて頭を左右に激しく振る。   女はその(さま)を冷ややかに見つめ――忌み子の頭を石畳に打ち付けた。  鈍い音が響き、女の手がすぐさま忌み子の頭を持ち上げる。  忌み子の目は焦点が定まっておらず、額は切れて血が流れ出している。 「起きろ」  女の声に、忌み子は反応しなかった。間を置かず、女の手が忌み子の頬を張り飛ばす。 「起きろ」  ようやく、忌み子の目が女の目を捉える。 「お前は、私の物だ」  女が口元の覆面を降ろし、顔をさらす。 「死にたくなければ私の役に立て。役に立たなければ捨てる。私が飽きても捨てる。死ぬ気で生きろ」  忌み子は何も答えず、ただ、女の顔を見つめていた。  綺麗な人だ――ただそれだけを思った後、忌み子は静かに目を閉じた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加