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3
どこともしれぬ、数本のろうそくだけが頼りの暗い部屋。その真ん中に、忌み子が転がされている。籠から出されたままの、縄で縛られ猿轡を噛まされた状態だ。
まわりでは、いずれも覆面を被り目だけを覗かせた男たちが、忌み子を見下ろしている。
忌み子は唸り声を上げながら芋虫のように蠢いている。縄をほどこうとしているようだが、ぎりと締め上げられたそれは、忌み子の力ではびくともしない。
そこへ、ひとりの男が歩み寄った。すらりと背の高い、痩身の男だ。
男は、目を見開いて睨み上げる忌み子を見つめ――縛られたその手を踏みつけた。
忌み子がビクンと震え、たちまち目から涙があふれだし、次には口から苦悶の声が漏れる。
それを見て、男は足をどけて傍らに屈みこんだ。そして、忌み子の灰色の髪をひっつかみ、涙と鼻水とよだれで醜く汚れた顔を強引に上向かせる。
「黙れ」
冷たく放たれた声は高く透き通った――女の声だった。
忌み子は、しかし声の美しさや言葉の意味などお構いなしに、目を閉じて頭を左右に激しく振る。
女はその様を冷ややかに見つめ――忌み子の頭を石畳に打ち付けた。
鈍い音が響き、女の手がすぐさま忌み子の頭を持ち上げる。
忌み子の目は焦点が定まっておらず、額は切れて血が流れ出している。
「起きろ」
女の声に、忌み子は反応しなかった。間を置かず、女の手が忌み子の頬を張り飛ばす。
「起きろ」
ようやく、忌み子の目が女の目を捉える。
「お前は、私の物だ」
女が口元の覆面を降ろし、顔をさらす。
「死にたくなければ私の役に立て。役に立たなければ捨てる。私が飽きても捨てる。死ぬ気で生きろ」
忌み子は何も答えず、ただ、女の顔を見つめていた。
綺麗な人だ――ただそれだけを思った後、忌み子は静かに目を閉じた。
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