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 女は、その街の裏側を取り仕切る集団の頭領だった。  彼らはあらゆるところに潜んでいた。姿を変え職を変え光の中を歩き、身を隠し顔を隠し影の中を歩いた。彼らの知らぬことは何ひとつなかった。  彼らはあらゆることに手を染めた。いたずらに街の秩序を乱す者は、闇の中に葬った。自分達に危害を加える者は、見せしめとして光の下で制裁した。  街の自警団が恐れて手を出さぬ程度に、しかし本国から討伐隊が送られぬ程度に加減をして住み着くその姿は、巨大な寄生虫のようだった。  忌み子は、女の所有物となった。  初めのうちは、ただ女の(そば)にいて、命じられるままに身の回りの世話をした。  女が喉の渇きを訴えれば水を汲み、空腹を訴えれば食べ物を皿にのせた。  女に労われと言われれば体を揉み、撫でさせろと言われれば頭を差し出した。  命じられるのはどれも簡単なことばかりだったが、何かひとつでもしくじれば、容赦ない罰が与えられた。  忌み子は最初、どうにかして逃げ出そうとあの手この手を考えた。  しかし、四歳の子どもが考えつくことなどたかが知れている。見抜かれ捕まり、そのたびに激しい折檻(せっかん)を受けるうちに、忌み子は逃げ出すことを考えなくなった。  自分はまだ小さい、この女にはまだ(かな)わない。そう判断した忌み子は、自身が成長し、逃げ出せる力が備わるその日をただ待つことにした。
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