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5
六年が経った。忌み子は十歳になった。
いまだに女の所有物として生きていたが、体は年相応に成長していた。自由こそなかったが、それにさえ目を瞑れば、朝昼晩の食事には事欠くことなく、夜は静かに眠ることができた。
忌み子の仕事には、新たにお使いが加わっていた。といっても、女に連れられて街のあちこちに出向くだけだったが、女はそれをお使いと呼んだ。
女はお使いの途中、忌み子に街を案内した。これだけなら観光のように聞こえるが、翌日には案内した場所に関するテストが行われ、ひとつでも答えられなければ容赦なく罰が与えられた。
そのため、忌み子は女の一言一句を必死に覚え、案内された道や家を目に焼き付けなければならなかった。
その他にも、女は忌み子に数々のことを教え込んだ。戦い方、逃げ方、隠れ方、字の読み書き、数字の計算――女は、おおよそ教育と呼べるものすべてを忌み子に施した。
一度だけ、忌み子は女に、「なぜこんなことを教えるのか」と問うた。女は、「私がお前を使うためだ」と、冷ややかな声で答えた。
ただ、自分を道具として使うために色々なことを教えている、忌み子はそう理解した。
忌み子の十歳の誕生日。
女は忌み子に、祝いとしてよく熟れた真っ赤なリンゴを渡した。そして、聞きたいことがあると告げた。
――お前は、どこから来たのだと。
――お前は、なぜこの街に連れてこられたのだと。
――お前は、捨てられたのかと。
女がこれほど詳しく忌み子のことを聞くのは初めてだった。
忌み子は、薄らいだ記憶をたどり、覚えている限りを話した。話したいと思ったのではない。もし話さなければどんな罰を受けるかわからなかったから話しただけだった。
忌み子の話を、女は黙って聞いていた。忌み子が話し終えると、女は忌み子が住んでいた村の場所について詳しく聞いた。忌み子がわからないと答えると、景色だけでもいいから思い出せと詰め寄った。
忌み子は、おぼろげに覚えている山や川の姿を話し、女は険しい顔でそれを聞いていた。
それも話し終えると、女はその場を立ち、部屋を出て行った。忌み子はリンゴをかじりながら、その姿を見送った。
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