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 その子が忌み子(いみこ)烙印(らくいん)を押されたのは、四歳のときだった。  村の呪い師(まじないし)が、「昨今(さっこん)疫病(えきびょう)は、灰髪(はいはつ)の忌み子が呼び寄せている」なる神のお告げを聞いた。  いまだ迷信が強い時代、しかも辺鄙(へんぴ)な村だ。  たちまち、忌み子の一家は村中から矛先を向けられた。  一度孤立すれば生きていけぬような小さな村。必然、忌み子の家族はふたつの選択を迫られる。  ひとつ――忌み子を殺すか。  ひとつ――忌み子を捨てるか。  幸いというべきか、一家にはすでにひとり、忌み子の兄に当たる子がいた。忌み子がいなくなろうとも、血筋が果てることはない。  父母は話し合い、捨てることを選んだ。いかに忌み子とはいえ、我が子を殺すことは(はばか)られた。  そしてある日。まだ陽も昇らぬ夜明け前、父は忌み子を縛り上げ、猿轡(さるぐつわ)を噛ませて(かご)に背負った。  母はすでに起きていたが、兄はまだ眠っている。  父が母に出発を告げ、誰にも気づかれぬようして村を出る。街までは歩き詰めで半日はかかる。  忌み子の揺れと唸りを背に感じながら、父は歩きだした。
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