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3さいのぼく。
そう。ここは子供の頃住んでいたマンションだ。もうずいぶん昔に取り壊されたはずのマンション。
ぼくは現在の意識を保ったまま、小さい頃に戻ってしまったのか。
プレハブ製の倉庫、こんなにも大きく見えていたんだなぁ。
マンションの敷地内から出ることは固く禁じられていたこの頃。この狭い敷地が世界の全てだった。そしていつも一緒に手をつないで遊んでいたみぃちゃんが、ぼくの全てだった。
この日もぼくたちは手をつなぎ、敷地の片隅にあるぼくたちだけの遊び場に向かっていた。
まだ土の残る一角。数年後に別棟が建設される事になるスペースだ。金網に空いた、ぼくたちだけが通れる大きさの破れ目。冒険心と、二人だけの秘密。雨の日以外、ぼくたちは必ずここで遊んでいた。
そうだ。思い出した。この日は……。
ところどころに転がる様々な大きさの石。ぼくはその一つにつまづいて転んでしまった。その拍子に膝にケガをした。
体中に響く衝撃。泥だらけになった服。襲い掛かってくる痛み。ぼくは顔をしかめ、唇を尖らせた。目に涙がにじんできた。泣き声が喉に上がってきた。
その時だった。みぃちゃんの透き通るような笑い声が、ぼくの耳に飛び込んできたのは。
「てっちゃんのかお、ひょっとこさんみたい! おもしろいー!」
ぼくは泣くのを忘れて、みぃちゃんの顔を見上げた。みいちゃんの笑った顔はまぶしかった。
みぃちゃんが笑ってくれるのがうれしくて、ぼくは何度もその顔をして見せた。
「もー、ほんとにバカなんだからぁー」
みいちゃんは笑い転げながら息も絶え絶えに言った。みぃちゃんが笑うのにつられて、ぼくもいっぱい笑った。
みぃちゃんは、ぼくの痛いのも、泣きたいのも、全部笑顔に変えてくれた。
みぃちゃんの笑顔をずっと見ていたい、ぼくはそう思った。
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