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14歳の俺。
美咲ちゃんが泣いていた。
中学校の屋上。屋上からの眺めは懐かしかった。そうだ、この頃はまだ、あの巨大マンションは建っていなかったんだ。
美咲ちゃんがサッカー部の先輩と付き合っていたのは知っていた。そりゃそうだ。毎日一緒にいた美咲ちゃんが、その時間を他の人に割くようになったんだから。わからないわけがない。
俺よりも、美咲ちゃんを笑顔にできる人が現れたのは辛い事だったけど、美咲ちゃんの笑顔が少しでも増えるのなら仕方がないと思っていた。
でも、美咲ちゃんは泣いていた。
失恋。
泣きながらぽつりぽつりと語る美咲ちゃんの言葉。
先輩が高校に進学してからだんだん美咲ちゃんとの時間を作ってくれなくなった事。そして、美咲ちゃんに内緒で新しく彼女を作っていた事。
俺には、どんな言葉をかけてあげたらいいかわからなかった。どうする事もできなかった。でも、美咲ちゃんの涙を、笑顔に変えてあげたかった。
俺は『ひょっとこさんの顔』になって、美咲ちゃんの肩をたたいた。
一瞬、くしゃっと顔をゆがめて、美咲ちゃんは笑い始めた。最初は声にならなかったが、最後はあの透明な声で笑ってくれた。
「もぉ、少しは空気読んでよね。ほんと、バカなんだから……」
そう言って、美咲ちゃんは涙を拭いた。
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