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そしてこの町に電車が通る最後の日がやってきた。
この日の空はどこかどんよりとした曇り空で、雪でも降ってくるんじゃないかと思えるほど寒かった。
家を出てから20分ほど歩いて駅に到着した。ここは駅員もいない無人駅で、いつもならここは電車の音ぐらいしか聞こえてこないし、自分以外の利用客も顔見知りなるぐらいしか乗っていないほど寂れていた。
だが今日は違っていた。
駅のホームには今までに見たことがないぐらい人が並んでいた。まあざっと見て20人ほどだが、ここで普段見る人数なんて0人も当たり前だから今日はとても多く思えた。
「あら、あなた清水さんのところの航太君?久しぶりだわね」
「あっ、大石さんどうもお久しぶりです」
隣に立っていた馴染みのある近所のお婆さんに挨拶する。大石さんとは俺が子供の頃からのご近所さんの1人だ。
「大石さんも今日は電車を観に来たんですか?」
「そうなのよ。今日が最後だからね。ここ20年ほど利用してなかったけど、ここには思い出があるから。だから最後に観ておこうと思ったの」
大石さんはどこか遠くを見ているかのように話していた。大石さんがいう思い出とはいったい誰との思い出なのだろうか。それは俺には分からないが、ここに集まった人それぞれに思い出があり、それに突き動かされるようにここに集まった。そう思えてならなかった。
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