0人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の暗闇が空を覆い隠してから4時間ほど経った頃、無人駅には最後の電車を待つ10人ほどの人がいた。
ガタンゴトンガタンゴトン
暗闇の中から電車の明かりが見えた。あと1分も経たないうちに駅に到着するだろう。周囲の人々は急いで横断幕を広げていた。
電車が見えてから1分後、この町に最後の電車が到着した。周囲が思い思いの声援を送っている中、行ったらもう車でしか帰れない片道の電車に俺は乗った。
車両には人が乗っておらず、整理券を取ってからお気に入りの端っこの席に座った。そして電車は走り出した。
いつもこの席に座って仕事に行っていたな……今日でこれも最後になるのか。
毎朝、太陽が登り始める頃に起きて、身支度整えてから朝食を食べて、いつもの駅に行って電車に乗る。そして整理券を取ってから、ガラガラの車両の中でこの席に座って職場のある駅まで眠る。
そんな日々の通勤も今日で終わる。明日は引っ越した先に大量にあるダンボールを開封して、明後日はそこから徒歩で通勤する。
この年齢まで実家から職場に通えたのも鉄道があったからだ。職場だけじゃない、高校やどこかに遊びに行くのも鉄道がなかったら無理だった。
人生という物語にはどの時代を思い返してみても鉄道があった。鉄道があったからこそ知り合えた友人、仕事、そして思い出……鉄道は人を様々な場所に運んで人生を豊かなものにしてくれた。
数多くの出会いを運んでくれた鉄道、そしてその鉄道を陰ながら支えてくれた鉄道員の皆さん……
「ありがとう。鉄道のおかげで良い人生を過ごすことが出来ました」
1人っきりの車両の中、窓の外を眺める。暗闇のせいでほとんど見えなかったが、在りし日の思い出を思い出しながら、その光景を見続けた……
最初のコメントを投稿しよう!