【書籍化作品】記憶

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 ――前世の記憶。  それは、一瞬私の中を駆け巡って、そして消えていった。  沢山の四角。何か私に警告を発しているような不安感。  突然だったし、意味わかんないし、私はその場に凍りつくしかなかった。 「おねえちゃん、どうしたの……?」  妹が、キョトンとした顔で私を見つめていた。 「あ、ううん、なんでもないよ。はい、前向いて」  私に向きなおっていた妹の両肩を持って前を向かせ、私は再び妹の髪に指をもぐり込ませた。  ツルッツルの手触り。ツヤッツヤの煌めき。  私は、この妹のロングヘアが大好きだった。 「ねぇ、今日はストレートでいいでしょ? 一番似合うし、この素敵な髪がもったいないよ」  これは私の本音。妹ほど美しい髪を、私は見た事がない。 「えーやだぁ。いーつーもーのー!」  両手を振ってごねる妹。妹は友達の間で流行っている「両方結び」を要求しているのだ。派手な髪型にあこがれるのは、まだまだ子供なんだから仕方ないけど。やっぱり、もったいない。  妹の髪を半分ずつ左右に分け、両耳のちょっと上あたりでそれぞれ縛る。やだなぁ。せっかくの美しい髪が痛むじゃない。 「ありがと! おねえちゃんっ」  不純物の全くない、ひたすら純粋な笑顔。思わず抱きしめて、頬にキスをしてしまう。 「おねえちゃん……っ、もぉ……!」  くすぐったそうに身をよじらせる妹。……あぁ、もう可愛いっ!
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