【書籍化作品】記憶

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 目の前に広がる小規模な遺跡。  事前の研究調査によると、この遺跡に危険な仕掛けはない。  という事は、重要な遺物などがあるわけでもない。  大事なものが安置されている遺跡には、それを守るような仕掛けがあるはずだから。  でも、この遺跡は周囲ごと「立ち入り禁止」に指定されている。  その理由は……。  何かに掴まっていないと吹き飛ばされてしまいそうな程の、流れの強さだった。  遺跡に近づくと、視界は驚くほどクリアになった。  地面から巻き上げられるものも、吹き飛ばされてくるものもない。  しかし、流れは相変わらず渦を巻くような強さ。  私達は言葉を交わす余裕もなく、必死でお互いの手を握りしめていた。  半分壊れた、建物。  その表面には、四角、四角、四角……。  これは……まさか。  前世の記憶……? 「ここで、待っててね。流されないように気を付けて」 「おねえちゃん……」  私の真剣な表情に、妹は心配そうにうなずいた。  この流れの強さでは、自分が足手まといになってしまう事がわかっているのだ。 「危ないって思ったらすぐ帰って来てね。おねえちゃんがいなくなったら、あたし……」 「大丈夫よ、あんたを一人になんかしないから」  そう言って、私は初めて妹の唇にキスをした。  ……何か、予感があったのかもしれない。
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