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なるほど。とわたしがひとり頷いていると、老人は続ける。
「この噴水には言い伝えがあってね」
「言い伝え、ですか?」
「そう。この噴水に背を向けたままコインを投げて、見事水の中に入れることができれば願いが叶うといわれているんだよ」
なんだかどこかで聞いたことがあるような……まあ、よくある類の伝承なんだろう。でも、どうしようかな。折角だから試してみようか。
財布から硬貨を一枚取り出し、噴水に背を向ける。
――どうか、これからの学園生活が上手くいきますように――
願いを込めてから、思い切って後ろに放り投げる。周囲の騒音に紛れ、硬貨の落ちる音は聞こえなかったが、噴水のほうを振り返ると、笑顔を浮かべた老人が深く頷いた。
老人と別れると、学校へ向かうために歩き出す。わたしが通うことになるクラウス学園は、16歳から18歳までの男子が通う三年制の学校らしい。
神父様にはわたしの性別を含めた素性が他者に知られる事のないようにと重々言い含められたが、女の子のわたしがそんな学校へ通うなんて、ここへきてもいまだ実感できずにいた。
確か簡単な地図を持ってきていたはずだ。制服のポケットをまさぐる。が、いくら探しても、ポケットの中には紙切れ一枚、綿埃ひとかけら入っていない。
まさか、なくした……? うそ、どうしよう……
先ほどの老人に道を訪ねようか? そう思って引き返そうとした矢先、自分と同じクラウス学園の制服を着た少年の姿が目に入った。ちょうどいい具合にこちらに向かって歩いてくる。
同じ学校の生徒なら、校舎の場所だって知っているに違いない。よし、あの人に聞こう。
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