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噴水の見えるカフェの、屋外に並べられた白い円形のテーブルに、わたしたちは向かい合って座っていた。
「すみません。こんなところに寄り道してもらっちゃって……」
言いながらレモネードのグラスを傾ける。ほのかに黄色く色づいた液体には薄切りさにされたレモンが浮いていて涼しげだ。
わたしのおなかの蛙があまりにも哀れな鳴き声を発していたのか、学校へ向かう前にカフェに寄ろうと少年が提案してくれたのだ。なかなか気がきく優しい少年ではないか。
「そういえば、まだ名前を名乗っていませんでしたね。わたしはユーニと言います。六月生まれなんですよ。だからこの名前で……単純ですよね。あはは」
わたしが名乗ると、少年はちらっと笑顔を見せて、飲んでいたコーヒーのカップを置いた。
「俺はクルト。クラウス学園の一年生になる」
「あ、それならわたしと一緒ですね」
長身のせいか大人びて見えるから、てっきり上級生かと思った。でも、同級生なら気兼ねする必要もない。
安心しきったわたしは、ケーキの乗った皿を引き寄せフォークで切り分け口に運ぶ。
「わあ、このイチジクのタルトすごく美味しい! まったりとして、それでいてしつこくなく、上品な甘みが口に広がる……」
あ、レモネードがもうない。おかわりを頼もうかな……?
「ああ、きょうだい達にも食べさせてあげたいなあ」
「君にはきょうだいがいるのか?」
「ええ、兄も姉も、弟も妹もいます。大家族なんですよ」
その時、わたしより少し年下であろう男の子が、クルトの後方から走ってくるのが目に入った。
「ちょうどあの男の子くらいの……」
言いかけたその時、男の子が何かに躓いたのが見えた。あっと思う間もなく、その身体は前方へと豪快に投げ出される。
と、次の瞬間、男の子の周りにばらばらと何かが散らばる。
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